大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和53年(く)107号 決定

少年 E・T(昭三四・五・八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の別紙抗告申立書記載のとおりであつて、要するに、原決定の処分が著しく不当である旨主張するものである。

そこで、少年保護事件記録及び少年調査記録を精査して検討するに、本件非行事実は、少年が覚せい剤を友人及び自己の身体に各注射してこれを使用したというものであるが、少年の覚せい剤の使用は単に興味本位の偶発的なものではなく、ルーズな生活態度等と相まつて習癖化しつつあることが後記のような交友関係や生活状態等からうかがわれること、これまで一〇回以上に及ぶ多数の非行歴があり、ことに昭和五〇年一一月一九日窃盗の非行により保護観察に付せられておりながら、その後なおも数回にわたり窃盗、道路交通法違反などの非行を繰り返し(その間昭和五二年五月より数ヶ月間補導委託による試験観察に付されたこともある)たのち、さらに本件非行に及んだものであることや、少年の資質(智能、性格、性行)、生活歴、本件非行当時の生活態度や行状、交友関係、家庭環境(両親は死亡)、年齢、ことに少年を監護している実姉夫婦(スナックを経営)の保護能力に多くを期待し得ないことや、怠惰な生活を好み非行グループとの交友に耽つており、再非行に陥るおそれも少なしとしないこと、さらには前記試験観察の経過や保護観察中の成績など諸般の事情を綜合して考えると、少年の現状は、もはや在宅処遇に期待しえない段階にあり、この際むしろ環境を一変し、中等少年院における専門的矯正教育と規律ある生活訓練を通じて、基本的な生活のしつけや勤労意欲を身につけさせることが、少年の健全な育成に役立つゆえんであると考えられる。したがつて、原決定の処分は、やむを得ないところであつて、相当であるという外はない。(なお、職権をもつて調査すると、本件審判期日に関する審判調書の裁判官認印欄には、原決定書の作成者たる裁判官小松平内の名下に押捺されている印影と同一の小松の認印が押捺されているものの、一方裁判官の氏名欄には黒川正昭の記載((ゴム印))があり、調書上両者の間にそごが認められる。

少年審判調書の記載事項((少年審判規則所定の事項))についても、有効に記載された事項については調書の証明力を認むべきものと解されるが、調書上記載事項相互の間に矛盾ないしそごがある場合には、当該部分に関する限りは、他の資料によつてそのいずれが正しいかを解明することは許されるものと解すべきである。けだし、当該矛盾部分は、それが記載事項本来の機能を発揮し得ない点では、全く記載を欠く場合となんら異るところはないと解されるからである。

そこで、この点につき当審の事実取調の結果によると、本件審判期日の審判は、すべて右調書の認印欄に押捺した裁判官小松平内により適法に行なわれたものであることが認められるので、右事実に徴し、審判調書の前記裁判官氏名欄の記載は調書作成の際の、単なる誤記であると認められる。)

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項後段によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西村哲夫 裁判官 藤原寛 笹本忠男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例